建築物の定期報告制度

【コラム】定期報告制度が充実しても、外壁落下事故は起こります

外壁打診調査協会 理事の和田 裕です。

先日、友人から、こんなメッセージが届きました。

「突然ですが質問。
近所のマンション、通りかかかったらタイルが落ちてきた。
見上げると、柱と梁の接合部?からタイルが剥がれてる。
これって危なくないのかな?
写真も送るね~。」

送られてきたのが、この写真です。

 

タイル落下

 

危なくないのかな???
どころではなく、お前が大変危ない目に遭っているではないか!
と思わず遠隔ではありますが大声で突っ込んでしまいました(笑)

この建物、築年数はごく浅いようです。

友人によると、十年どころか五年も経っていないのではないか、
とのことでした。

経年劣化より、施工不良が疑われる案件です。
私の知人の周囲でこのような事故が起き(しかもその瞬間!)、
その確率を考えると、外壁の落下事故は、全国レベルで
頻繁に起こっているのではないかと感じました。

 

セミナーの準備のたび、定期的に外壁の落下事故を調べている
のですが、今回も興味深い資料が見つかりました。

次回に続きます。

 

【コラム】建築基準法の改正を前向きに捉えましょう

外壁打診調査協会 理事の和田 裕です。

代表理事のあいさつにもありましたが、今年の6月、特殊建築物の
定期報告制度について謳っている、建築基準法第12条が改正されます。

変更内容は、定期報告をする義務のある特殊建築物の対象が増えることと、
いい加減な報告をした資格者への罰則が強化されることです。

たとえば、高齢者が寝泊まりする用途の施設について、これまでは
小規模な建物は報告対象ではありませんでした。

それが6月以降、2階建以上かつ300㎡以上の施設は、
全国一律で報告対象となります。

外壁打診調査事業を営む者にとっては、対象建物が増えることで
プラスと考えられますが、建物オーナーにとっては負担になるでしょう。

 

私は一級建築士ですので、これまで何度か、建築基準法改正後の変化を
体験してきました。

特に印象に残っているのは、10年前の、耐震偽装事件後の改正です。

何千人もの居住者の安全を脅かす事件であり、マスコミにも大きく
取り上げられた事件を受けての大改正だったため、建設業界へ与えた
影響は甚大なものがありました。

通常1ヶ月程度で降りていた申請許可に、一時的とはいえ数ヶ月以上の
時間がかかるようになり、建設業界の業務は滞りました。

厳格すぎる新規定が審査日数の長期化を起こし、住宅着工数が激減、
建設会社に留まらず、建材メーカーにも影響がおよび、倒産件数も増加、
「建基法不況」との言葉も生まれました。

社会的影響が大きな事件後の改正で、性急過ぎたためともいえますが、
私たち建築士、建設業界の人間は、「基準法改正」と聞きますと
苦い思いがこみ上げてくる人が多いと思います。

 

ただ、今回の改正は、10年前とは異なります。

既存建物の維持保全を目的とした基準法12条は、8年前に一度
強化されており、ざっくり言えば今回はその不備を補う意味合いが
強いようです。

決して性急な改正ではないので、大きな混乱も起きないでしょう。

建物オーナーにとっては、面倒な改正と思えるでしょうが、
「建物の安全性を定期的に見直し、行政も点検状況を把握してくれる」
機会と考え、安心感を得ることも可能ではないでしょうか。

もちろん、低コストで建物の調査を行う事業者にとっては、
ビジネスのチャンスが広がることにもなります。

ぜひ、今回の改正をポジティブに受け止めて欲しいと考えます。

建物オーナー様にも、「コスト面の負担」というネガティブな面と、
「定期的な建物の安全性確保」というポジティブな面をバランスよく
見据えて頂けると、ストレスが少ないのではないかと思われます。

 

法改正により、定期報告制度が変わります

外壁打診調査事業セミナーに参加頂いた方には、
セミナーのタイミングで、最新の情報をお伝えしていますが、

実は昨年、建築基準法の、定期報告制度に関する部分の改正が
閣議決定され、来年から施行となります。

改正内容の一部に、「建築物調査員」という新しい資格制度が
含まれています。

定期報告を各自治体に提出するのは、1級建築士、2級建築士、
そして「特殊建築物等調査資格者」の名義で行う仕組みです。

来年以降、「特殊建築物等調査資格者」の資格はなくなり、
新たに設けられる「建築物調査員」に入れ替わる予定です。

 

「えー、『特殊建築物等・・・』の資格、もうなくなるの?

資格取り直しかよ~。だまされた~」

 

と心配する人もいるかもしれませんが、ご安心を。

既に「特殊建築物等調査資格者」の人は、自動的に
「建築物調査員」となるので、新たな講習を受ける必要はありません。

特殊建築物等調査資格者に、こんなお知らせが届いているはずです。

 

 

IMG_1540

 

 

書面に書いてあるように、新たな講習を受ける必要はありませんが、
新しい資格証の交付を受ける必要があるようです。

来年以降の改正は、定期報告の対象建物が増加するという
外壁打診業界にとってはプラスの側面もあります。

「いちいち調べるのが面倒くさい」という方は、
再来週に開催の外壁打診調査事業セミナー
ぜひ参加して下さい(残席わずかです)。

この事業の面白さがより深く伝わるよう、セミナー内容を
リニューアルしてお待ちしております。

 

定期報告制度:未提出のリスク

協会理事の和田です。

再三このホームページで紹介している「定期報告制度」ですが、
6年前の改正で相当に強化されているため、きちんと法律通りに
運用されているのかどうか、気になっていました。

建物が定期報告の対象であるかどうかは、ビルオーナーやビルの管理者に
手紙が届くことで、確認することができます。

これをひたすら無視し続けると、どうなるのか。

定期報告制度で違反があった場合、100万円以下の罰金がある、と法律には
書いてあります。でも、罰金の通達が乱発されているようでしたら、もっと
ニュースになってもいいはずなのに、そんな話は聞いたことがありません。

 

ということは、
法律だけ整備しても、制度の強制力はさほど強くない?
「報告したくない」とゴネていれば、それが通ってしまうのか?

 

そんな疑念も湧いてきます。

定期広告制度は建築基準法に謳われた、れっきとした国の法律ですが、
有名無実な法律だったら、意味がないのではないか。

そんな疑いもあって悶々としながら調べ物をしていたら、偶然ですが、
気になるホームページを見つけました。

広島市の、特殊建築物の定期報告制度を紹介するページです。

 

広島は他の自治体と比べて、定期報告制度の対象範囲は、さほど広く
ありません。
適用範囲が狭い自治体と比べれば広いのですが、東京や大阪と比べると、
対象数はそんなに多くない自治体です。

広島市の、上記HPがすごいと思ったのは、定期報告の対象建物名を
全て実名でリストアップしていることです。
そして、過去の定期報告が提出されているか否か、履歴も閲覧できます。

こんな感じで、です。

 

広島市 定期報告

 

ぼかしをかけてありますが、建物の名称、所在地、そして、定期報告の時期と
過去の報告が既出か未提出か、が明示されています。

過去の定期報告未提出、という建物もチラホラ見られます。

このリストを見て私がまず驚いたのは、対象建物の多さです。
広島市中区だけで、500近くあるでしょうか。

数だけ聞くと驚きませんが、実際にリストを見ると、
「こんなにあるんだ」と圧倒されます。

次に、建物の実名とともに、定期報告の過去の提出履歴、今後の提出時期まで
リストで明らかにされていること。

過去の定期報告を提出しているかどうか、次の定期報告の時期は
いつなのか、建物ごとに記載されています。

過去の報告が未提出であれば、それも明確に分かるようになっています。

これは、ビルオーナーやテナントにとって、大きなリスクとなります。

建物の安全性について、報告の義務を怠っていることが、公共のHPに
堂々と公開されてしまっているからです。
見る人が見れば、風評被害を被る可能性だって、大いにあります。

広島市のような例は、まだ少数だとは思いますが、定期報告の義務がある
にも関わらず、未提出でいる場合、手紙や電話での催促の他に、督促状が
送付されるなど、いくつかの段階があるようです。

再三の指摘を無視し続けるのは、逆の意味で大きなプレッシャーです。

定期報告の未提出リスクは、最初のうちは大きな罰則を受けることはない
ものの、次第に大きな圧力となって押し寄せるものと考えるべきでしょう。

 

定期報告制度への、素朴な疑問(その2)

Q:費用もかかるが、定期報告をやる意味があるのか?

この素朴な問いをテーマに、前回よりコラムを書いています。
今回はその続きです。

定期報告の意味、目的って何でしょうか?

上の問いに対する、大阪建築防災センターの回答は以下となります。

A:事故を未然に防ぐため、外壁・避難路など建築物の防災上の性能
について、専門知識を持った人に定期的に見てもらう必要があります。
万が一、建築に係る事故等が発生した場合、定期報告の有無及び
その内容は重要な資料となります。

外壁が劣化して一部が落下すると、ビルの使用者や通行人の安全を脅かします。
事故が起きたら、その全責任はオーナーにあります。

ただ、市街地を安全な環境に保つ役割・責任は、個々の建物オーナーだけで
なく、建設計画を事前にチェックする立場にある行政にも、あるはず。

なので、ビルの劣化を建物オーナーだけの責任でモニターするのでなく、
行政も、監督責任の一翼を担うべく、定期報告制度によって建物の状態を
把握しようとしている
のです。

論理を飛躍させれば、こうなります(私の解釈ですが)。

 

 

建物の老朽化による事故は、確かに建物オーナーの自己責任かもしれない。

でも、突発的な事故もあるし、マジメに調査している人もいるだろう
から、自己責任だけで片づけるのは酷だよね。

ちゃんと定期報告してくてくれれば、たとえ事故が発生しても、行政が

「この人は、ちゃんと調査して報告してました。
ですから今回の事故は、やむを得ない突発的な事故と判断します」

との、お墨付きを与えますよ。

完全な免責にはならないけど、情状酌量に有利に働くかもしれないね。

 

 

と、わざわざ行政が、オーナー自己責任のはずのビル劣化に、関与して
くれようとしているのです。

そう考えると、有り難いではありませんか。

外壁落下の事故で、万が一通行人にケガでもさせてしまったら、ビルオーナーや
テナントのイメージダウンは避けられません。

NHKクローズアップ現代で扱われた札幌の事例では、
ビルを所有する飲食店の社長が、平謝りしているシーンが全国に流されました。
このような事態を招くことは、企業にとって、大きなリスクとなります。

ビルの劣化は避けられないことですが、定期報告で安全性をチェックして
いれば安全対策になるし、決して「安全対策を怠った」のではないことを
証明してくれることになります。つまりリスク回避策になるということ。

ですから定期報告の目的は、

1.事故を未然に防ぐため、建築物の安全性について定期的に専門家の
     チェックを受けること、を奨励すること

そして、

2.万が一事故が起きた場合、やむを得ない突発的な事故かどうかを
     判断する資料として、定期報告書を用いること
     (ちゃんと提出していれば、安全点検していた証拠が残る)

の、2点に集約されると考えられます。

定期報告は面倒な手続きにはなりますが、外壁落下の事故を避け、事故が
起きたとしても、過失の割合が少ないことを証明してくれるものなのです。

 

定期報告制度への、素朴な疑問(その1)

外壁打診調査協会・理事の和田です。
大型連休も終わり、いよいよ大阪でのセミナーが近づいて参りました。

今回のセミナー企画を控え、関西方面での「定期報告制度」実施状況を
関係する官公庁へ、事前に問い合わせてみました。

基本的には、東京とほぼ同じ基準で実施されていることが確認できました。

なので、今東京方面で外壁全面打診の需要が増している状況と同じ現象が
関西方面でも起こることは、ほぼ確実と言っていいでしょう。

ところで、大阪市の定期報告制度の提出先である、大阪建築防災センター
ホームページを閲覧したところ、面白いQ&Aを見つけました。

定期報告制度に対する素朴な疑問に答えているのですが、
なんともリアルで、生々しいやりとりが、そこにありました(笑)。

何度かに分け、幾つか見ていきましょう。

まずは、一番ストレートで面白かった質問から。

 

Q:費用もかかるが、定期報告をやる意味があるのか?

 

・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・そうですよね。

 

この質問のモデルになった、大阪の方の気持ち、よくわかります。

建物の痛み具合について、わざわざお金を掛けて報告書を提出する。
「大きなお世話だ」「自己責任でやるよ」とも言いたくなります。

さらに、ただ報告するだけにしては、

「10年に一回は外壁を全面打診せい!」など、ずいぶん大がかりな要求もある。

そこまでしてやる必要が、果たしてあるのか?
もっともな疑問です。

 

 

単刀直入に言うと、必要です。

自治体によって対象の建物・規模が異なりますが、建物が対象とされた場合、
全国一律、定期報告することが法律で義務づけられています。

要するに、定期報告書提出の要請が建物オーナーさんに届いたら、
何人たりとも、報告書の提出からは逃れられない、ってことなんですね。

法律で決まった、お上のお達しなもんですから、抜け道はほぼ、ない。
「うちの県なら」「うちの市なら」と特例を探したくもなりますが、
その手は通用しなさそう。

実際、大阪建築防災センターさんに、抜け道がないかどうかあれこれ聞いて
みましたが、定期報告も外壁全面打診も、抜け道はありませんでした。

では、質問にある「定期報告の意味」って何なのでしょうか。
次回は、それを考えてみたいと思います。

 

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